【第1回】USRPの送信ゲイン設定で出力レベルはどうなる?


SGやスペアナなどの測定機に慣れていると、ソフトウェア無線機で戸惑うことはいくつかあります。

例えばRF送信レベルです。

測定機のように「-30dBmの信号を送信する」というふうに出力するRF送信レベルを指定出来ないことが多く、通常は送信ゲインを指定し出力を見ながら調整します。この送信ゲインはソフトウェア無線機毎に設定できる範囲が違います。

例えばUSRP B200miniは、Tx Gainを0~89.8dBを設定してRF送信をすることが出来ます。


Knowledge base : B200/B210/B200mini/B205mini
https://kb.ettus.com/B200/B210/B200mini/B205mini


実際のRF送信レベルは試して見ないと分からない、というわけでもなくメーカーのEttus Researchでは測定結果を公開しています。


※ 32MBのPDFなので注意
B200mini_B205_RF_Performance_Data_20160119.pdf
https://kb.ettus.com/images/a/ae/B200mini_B205_RF_Performance_Data_20160119.pdf


例えば、2000MHzでのTx Gain設定と実際にRF送信されるレベルの関係については上記PDFの246ページ目(Tx Figure vs Gain w/Freq =xxx)にあります。


拡大します。Tx Gain 20dBを指定すると-54dBmのRF送信レベルになることが分かります。

では本当にグラフ通りのRF送信レベルになるか試して見ます。


使用機材

今回の実験には以下の機材を使用しました。


送信側

PCLenovo ThinkPad X1 Nano (Gen.1)
USRPB200mini-I (UHD 4.3.0)


計測側

PCPXIe-8135
スペアナPXIe-5646R (NI RFSA 21.0.1)
デジタイザADALM-PLUTO
(IIO Oscilloscope, master-gc33a08a)


セットアップ

下記のリンクからダウンロードしてWindows PCにUHDをインストールします。
B200を使用する場合は、別途USBドライバとlibusbをダウンロードインストールします。


  1. UHD (64bit版をダウンロードしインストールする)
    https://files.ettus.com/binaries/uhd/latest_release/

  2. B200mini等のUSBドライバのインストール方法(Windows)
    https://files.ettus.com/manual/page_transport.html#transport_usb_installwin

  3. libusbのセットアップ
    https://libusb.info/

    libusb→Downloads→Latest windows binaries→ダウンロードしたzipを展開→VS2015-x64→dll→usblib-1.0.dllを、C:\Program Files\UHD\lib\uhd\examplesにコピー

UHD送信サンプルのtx_waveformを使ってCWを送信する

UHDに波形を送信するだけのサンプル"tx_waveforms"が用意されていますので、まずこちらで試して見ます。

WindowsならUHDとをインストールした後、

    cd C:\Program Files\UHD\lib\uhd\examples

にtx_waveforms.exeがあります。

コマンドプロンプトを起動し、以下の様にコマンドを実行すると2GHz 1MS/sでCWがGain 20でRF送信されます。

tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --wave-type CONST --gain 20


ちなみに送信信号の種類は、4種類で CONST, RAMP, SQUARE, SINEです。
--amplで信号の振幅を指定することが出来ます。


tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --wave-type CONST --gain 20


tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --wave-type RAMP --wave-freq 1000 --gain 20


tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --wave-type SQUARE --wave-freq 1000 --gain 20


tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --wave-type SINE --wave-freq 10000 --gain 20

※CONSTとの違いは波形の周波数が可変。CONSTは固定。


送信レベルを計測する

では、B200miniから送信しているCWをスペアナで計測します。

送信ゲインを 0~86まで変化させて計測しました。実行したコマンドは以下の8種類です。

tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --gain 0
tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --gain 10
tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --gain 20
~ 中略 ~
tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --gain 80
tx_waveforms.exe --freq 2000e6 --rate 1e6 --ampl 0.7 --gain 86


送信ゲイン 20dBで、スペアナのピークが -55dBm。グラフの値が-54dBmなので概ね同じです。



送信ゲインを10dBずつずらして計測したところ、ほぼ重なりました。


2GHz

Tx gaindBm (ave 100)
0-74
10-64
20-55
30-45
40-35
50-24
60-14
70-4
80(+30ATT)-25+30=5
86(+30ATT)-20+30=10

念のため周波数を1542.72MHzでも試したところ、1550MHzのグラフとほぼ重なりました。


1542.72MHz

Tx gaindBm (ave 100)
0-73
10-63
20-53
30-43
40-33
50-23
60-13
70-3
80(+30ATT)-24+30=6
86(+30ATT)-18+30=12

USRPの送信レベルを確認するには、上記資料を見れば良いことが分かります。


送信信号振幅を変えてみる

tx_waveforms.exe は実行中にCWデータを生成し、ソフトウェア無線機(ここではB200mini)に送ることでRF信号として送信しています。

tx_waveforms.exe の--amplは、生成するCWのスケールを決めるオプションです。

フルスケールなら32768~-32768のCWデータが生成され、0.7なら22937~-22937のCWデータが生成されるので30%減の送信レベルになるはずです。

これを確認するために、--ampl 0.7→0.35にしました。すると送信レベルも-6dBmと半分になりました。


GainampldBm
201-52
200.7-55
200.35-61


tx_waveforms.exe --amplの上限は0.7なので、フルスケールで送信できません。
フルスケールの信号でも試して見たいため32768~-32768のCW信号を生成し、任意信号送信サンプルで送信しました。

すると+3dBmと変化しました。


実行例)
tx_samples_from_file.exe --freq 200000e4 --rate 1e6 --gain 20 --file r:\Sin-1ms.dat --repeat

弊社製の簡単信号作成アプリでCWのIQバイナリファイルを生成


デジタルIQと信号レベルの関係性については、弊社笹生の以下の記事をご覧下さい。


実際の RF信号レベルと、デジタル IQ 信号のレベルの関係性-1
http://dolphinsasoh.blogspot.com/2018/03/rf-iq-1.html


実際の RF信号レベルと、デジタル IQ 信号のレベルの関係性-2
http://dolphinsasoh.blogspot.com/2018/03/rf-iq-2.html


実際の RF信号レベルと、デジタル IQ 信号のレベルの関係性について-3
http://dolphinsasoh.blogspot.com/2018/04/rf-iq-3.html


実際の RF信号レベルと、デジタル IQ 信号のレベルの関係性について-4
http://dolphinsasoh.blogspot.com/2018/04/rf-iq-4.html


実際の RF信号レベルと、デジタル IQ 信号のレベルの関係性について-5
http://dolphinsasoh.blogspot.com/2018/05/rf-iq-5.html


まとめ

  • USRPのRF送信レベルを確認する場合は、Ettus Reserchが公開している資料を探す。

  • 資料はKnowledge baseにある各機種の"RF Performance"にリンクされている。

    例)
    Knowledge base : B200/B210/B200mini/B205mini
    https://kb.ettus.com/B200/B210/B200mini/B205mini

  • 計測した結果送信ゲインはグラフと同じ結果を得ることが出来た。


以上、ドルフィンシステム福島でした。






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