RF収録に必要なストレージ性能を見極める目を養う

今日はドルフィンシステム福島です。

USRPは色々な形態のソフトウェア無線機がありますが、PCと一体型のNI USRP-2974という機種があります。下図のようにUSRP-RIOを2台重ねたような大きさで、CPUも内蔵していて単体でLinuxが起動し、動作保証外?ですが自分でインストールすればWindowsが起動します。

先日弊社のお客さまから「コンパクトなRF収録装置として使えないか?」とお問い合わせがありました。弊社で1台所有してはいるものの、どの程度の収録性能があるかベンチマークをしたことがありませんでした。

今回は、NI USRP-2974を収録装置としての性能評価をしてみたいと思います。



NI USRP-2974とは

NI USRP-2974は、NI USRP-2954(160Mhz BW Rx/Tx 2chずつ)とCPUボードを一体化したソフトウェア無線機で、リアルタイムのソフトウェア制御可能なNI Linux RTとFPGAを使ってLTE端末等として動作させる為のソフトウェア無線機として開発されました。

以下のページに紹介動画があります。

USRP-2974
https://www.ettus.com/all-products/usrp-2974/

出荷状態ではNI Linux RTがインストールされていますが、Windowsを上書きインストールすることで、通常のWindows PCとNI USRP-2954として利用できます。PCとUSRP-RIOをPXIeケーブルで結線しなくて良いのでコンパクトにまとまります。

搭載しているCPUボードは、conta-TS170。

搭載CPUは、第6世代Intel CPU(Skylake)で2015年頃のCPUで、Laptop向けのCPUです。

最近のノートPCに搭載されている第12世代インテルCore i7-1280P等と比べると半分程度の性能です(passmark single thread比)。


ストレージのベンチマークを取得する

さて2974のストレージは何が搭載されているのかと調べてみると、

Samsung SSD 960 EVO 250GB

であることが判明。SATA接続ではなくNVMeなのでPCI Express接続でバス速度は申し分ありません。

開発元のSamsungでパフォーマンスを確認します。
シーケンシャル書き込みで1900MB/sと書かれています!

単純計算で380MHz BW帯域幅を収録出来る書き込みレートです。
USRP-2954が最大160MHz BWなので余裕で収録可能ですね!!

と、誤解される方がいらっしゃるのですが、これが大きな間違いです。

ぬか喜びをしないで粛々と調査を開始します。


一般的なベンチマークソフトでベンチマークをする

ストレージのベンチマークは一般的にCrystalDiskMarkというアプリを使用していますので、今回も使用してみます。

すると書き込みレートは1600MB/s! 1900MBには及びませんでしたが、かなり良い成績です。

ですが書き込みサイズが1GiB(1Gバイトのファイルを5回書き込んで平均レートを計測する)なので、RF収録のサイズとしては小さいです。書き込みサイズを増やしてベンチマークをしてみます。


32GBにしてみたところ、578MB/sと書き込みレートは急降下(下図)。

一体どういうことでしょう?

次にATTO Disk Benchmarkというストレージ屋さんが開発しているベンチマークアプリでも計測してみます。このアプリの特徴は、1回に書き込むサイズ毎にベンチマークをしてくれる所です(1度に書き込むサイズによってレートが変わる)。

下図のように32GBを書き込ませると、最大でも785MB/sで300MB/sみチラホラと振るいません。


ドルフィンシステム内製のベンチマークソフトでベンチマークをする

次にドルフィンシステムが開発したベンチマークアプリで測定します。

ベンチマークアプリはストレージベンチマーク用に特化している(最適化している)のに対し、弊社のアプリは普段開発に使用しているLabVIEWを使っており、お客さまに納品するアプリに近い性能で動作します。これなら実際の動作に近いため、過度な期待を持たずに済みます。

で、実際に32GBを様々な書き込みサイズでベンチマークしたところ、300MB/s程度の書き込みレートしか出ていない事が分かりました。

弊社のベンチマークアプリは、書き込み間隔を記録することでさらに細かい分析をすることが可能です。次に、このストレージ残領域全体(120GB)に書き込みベンチマークを行いました。

すると、下図のように、書き込み開始後10秒程度は1300~1600MB程度の書き込みレートが出ていますが、その後は300MB/s程度しかでていない事が分かりました。


何故1900MB/sではなく300MB/sなのか?

いくつかのベンチマークにより、このストレージの実効レートは300MB/s程度であることが分かりました。1900MB/sという数値はなんだったのでしょうか?嘘でしょうか?


いえ、300MB/sは正しい数値なのです。


商品のホームページを見てみると確かに1900MB/sと書かれていますが、

https://semiconductor.samsung.com/jp/consumer-storage/internal-ssd/960evo/

気になる一文が・・・拡大してみると。

インテリジェントTurboWriteリージョン後のシーケンシャル書き込み性能は300MB/s(250GB)、600MB/s(500GB)、1200MB/s(1TB)です。

ちゃんと300MB/sと書かれています。

SSDには、書き込みキャッシュのDRAMと高速に書き込みできる領域フラッシュメモリ領域が用意されていて、あたかも高速に書き込みがなされているように動作します。普通のPC使用環境ではこの高速書き込み機能が有効に働くことで、快適な性能を得ることが出来ます。

しかしRF収録装置は、連続書き込みを行うのであっけなく高速書き込み領域を使い尽くしてしまうので、実力が現れてしまうのです。

宣伝用の転送レートを見て書き込みが出来る!と思い込む前に、ストレージのベンチマークを取得することが重要です。

まとめ

  • ストレージの書き込み性能〇〇〇〇MB/sというのはキャッシュを含めた転送レートで、宣伝用の転送レート
  • キャッシュを上回る書き込みを行うと、ストレージの実力が露わになる
  • RF収録装置では長時間の連続書き込みを行う必要があるので、宣伝の書き込みレートを鵜呑みにしてはいけない
  • NI USRP-2974の連続書き込み性能は300MB/s。帯域幅で60MHz BW相当

ドルフィンシステムでは最新のSSDなどを購入しRF収録に最適なストレージを常に把握するように努めております。

以上、ドルフィンシステム福島でした。


コメント